写真と手紙

日々、時間も人も只々流れに身を任せ
出勤する朝
信号待ちの間に絡まったイヤホンを解き
行ききの激しい道路には風船が落ちているのを確認したものの
車が通ると破裂音にビクりとする
信号が変わり渡っていると破れた風船に手紙が付いていた
何故か恥ずかしいと思いつつも屈んで手紙を拾ってみた
仕事の昼休みに思い出し、手紙を広げてみると
タイヤの跡で見えない文字があるが
しっかりとした文章なので汲み取りながら読める
内容は
「過去に戻れる方法」
武蔵関駅から青梅街道に向かい
交番のある交差点を右折。
まもなガス⭕️が出てくるので
それを少し過ぎるとまた交差点。
右斜めにある⭕️ーソンの駐車場に
雑誌を左手に持っていて下さい。
この手紙を拾った日の23時に。

恐い内容だと思いつつも
気になって仕事に集中出来なかった

営業の帰り
今いる場所が手紙の場所から近いと思った。
なぜか仕事の疲れからか恐怖心はなく
興味のみで行く事にした
指定の場所に時間丁度

杖をつき腰の曲がった老婆と少年が来て
「こんばんわ」と声をかけてきた
嘘だろと心で思いながら煙草をそそくさと消し
「手紙の方ですか」と聞いてみた
老婆はニコリとして
大事そうに風呂敷から
日焼けした古い写真何枚かと
見覚えのある手紙を差し出してきた

話の内容は
どうやら自分は未来に大事故を起こしてしまうらしい
話しを聞きながらも
昔故郷でお年玉と一緒に貰った祖父と祖母からの手紙である事に気づいた

幾つかの質問をしてみても
本質である事故の事や
この写真や手紙などについては答えてはくれなかった
一方的とも言える短い話しが終わり
「では、お元気で」
と言って振り返る老婆は涙ぐんでいた
少年は終始無言で無表情だったが
帰り際に手を振ってくれた

呆然として写真と手紙を持つ自分は
フィクションと現実を行ききしたが
家に着く頃には少し落ち着いていた

それから40年経ち

何事もない日々が過ぎていた
あの日から写真と手紙を肌身離さず持っている
写真は家族と親戚が揃っている
誰かの何回忌だろうか
何枚かと自分の写真
手紙は自分が大人になった時に
きっと役に立つ言葉として書いてくれたものだった
それらの言葉があって
今の何もない平和な日々があると思っている
TVは観ない様にしているが
どこかで何かが起こっている
その一つに自分が関わっていた可能性があったのではと思うと
あの日にこれらを貰って良かったと思う

確証もなく
少ししか老婆の顔と少年の顔を見れなかったが
妻に少し似ているかなと
感じる事がある
少年は皆目見当がつかない

人は不思議な事が一つ位ある
冷気で重力が変わる科学にしても
同じ様なものかと思っている

今日は妻と子供と明治神宮に行って
帰りにはクレープを食べようという
そんな一日